物語『一蓮托生』

一蓮托生

 

わたしは正義のヒーローだ。

悪を倒すため命をかけて戦っている。

子供たちに夢と希望を与えている。

 

今日も街を襲う怪人が現れた。

『出動だ。』

小さな子供を人質にして怪人が暴れている。

『その子供を解放しろ。わたしが来たからには

もう好き勝手にはさせないぞ。』

離れたところでテレビ中継をしているカメラに向かってカッコ良くポーズを決める。

 

怪人との格闘がはじまった。

『わたしの正義の鉄拳を受けてみろ。』

わたしの正拳突きが見事に決まり怪人は倒れ込んだ。

『そろそろフィニッシュの時間だぁー』

わたしは必殺技を放つために叫んだ。

 

その時・・・。

小さな声が聞こえてきた。

【待ってくれ。俺は最後の怪人だ。俺を倒してしまうと、もう怪人は現れないぞ。こちらも人手不足なんだ。】

 

わたしも小さな声で聞き返す。

『最後の怪人?おまえを倒すとわたしはヒーローではなくなるということか。』

 

『うわぁー。』

わたしは反撃を受けた振りをして倒れた。

怪人はその隙に逃げていく。

だがわたしは人質を救出し街を守った正義のヒーローとしてインタビューを受ける。

そして心の中でこう呟く。

『そう・・・。わたしはずっとヒーローでありたい。』

 

あれからこんなやり取りを十数年・・・。

もう誰も見ていないヒーローごっこ・・・。

正義と悪の茶番劇・・・。

『わたしは生涯ヒーローでいたい。』

今日も誰も居ない街を守るため戦う。

友人となった怪人と台本通りに。