物語『英才教育』
英才教育
星空が綺麗な夜だった。
僕たちだけしか居なかったビルの屋上。
僕は俯いている。
塾の帰り道、君が突然言い出した。
『今日は星空がとても綺麗だね。息抜きに見に行かない?』
君は返事も待たずに歩いて行く。
そして僕は君を追いかけた。
立ち入り禁止のロープを乗り越えてビルの屋上へ登る君の後ろを僕もついて行った。
眼前に広がる星空を見た君は僕の方を振り向き
笑顔で言った。
『すごく綺麗な星空。とてもロマンチックね。』
『ねぇ、聞いてるの?』
正直あまり聞こえなかったけれど
後々面倒臭いから適当に相槌を打った。
無邪気にはしゃぐ君は屋上の縁を歩いている。
その時、風に煽られた君は足を滑らせ落ちていく。
咄嗟だったため僕は手を伸ばしてしまった。
けれど届かない。
いや届かせようとしなかった。
そして僕は落ちていく君を見て安堵した。
僕から離れて行く君を見て安堵した。
頭の中にある言葉が響き渡る。
幼い頃から刷り込まれてきた
あの言葉・・・。
『密接しないように。
人との距離はしっかりとるように。』
君マスクしてなかったから・・・